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Interview楽しく生きるために

株式会社こさじ  代表取締役 梶尾直子さんのサムネイル

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  • 経営者

株式会社こさじ 代表取締役 梶尾直子さん

お母さんと子どもたちが笑顔で向き合う時間を増やしたい 育児の実体験から“手間抜き”をサポート

現在、4歳と2歳の男の子を育てている梶尾直子さん。幼い2人の子を育てながら会社員を続けることに限界を感じ、2021年2月に離乳食関連の会社を立ち上げました。「すべてのお母さんと子どもたちが笑顔で向き合える時間が増えるように」との願いを込め、離乳食をあげるときに欠かせない小さなスプーン「こさじ」を社名にしました。一念発起して起業に至った背景や商品開発への思い、これからについてお話を伺いました。

子育ての苦労から働き方を見直し

——会社を企業する以前は、どんな道のりを歩んで来られたんですか?

大阪の短大を卒業して、アメリカに3年間留学しました。帰国して、大学の留学生窓口の職員として働いた後は転々と。東京で会員制のインキュベーション施設の立ち上げに携わったり、結婚を機に九州に戻った後は福岡で医療系のスタートアップ企業で総務をしたり。でも、これというのはなくて、人の縁で誘ってもらって、ずっと事務系をやってきた感じです。

——事務系でずっと働いてこられた梶尾さんに変化が起きたのはいつですか?

2人目が生まれてからです。1人目の時は会社員で、産後半年で保育園に入れて何とかやれていました。でも、母親になってはじめて、子育てしているお母さんたちはこんなにも大変な日々を送っているのだなと実感もしました。それが2人目になると、発熱などで急な対応が必要になることが増えて、会社員は厳しいなと感じていた。でも、働くことは楽しくて諦めたくなかった。だから、自分のペースで働けるように働き方を見直したいと思いました。

——子育てが始まって、一番感じたことは?

日本ではまだまだ「母親は頑張るのが当たり前」「手作り料理が愛情」といった風潮がある気がします。そんな風潮にお母さんたちはがんじがらめになって疲弊して、逆に子どもに接する時間や笑顔でいる余裕がなくなる、なんてことが起きていて本末転倒じゃないかな、と思いました。世の中には便利な商品やサービスがたくさんある。それを活用して意識的に「手間抜き」をして、自分自身のことも大事にしてほしい、と。お母さんもやりたいことがある時は我慢せず、後回しにせず、周囲の助けを借りながら挑戦してみればいい。それが結果的に子どもとの時間を楽しんで精神的な余裕につながって、笑顔で子育てができることにつながると思いました。

大変だった離乳食作りがヒント

——そこから会社を起こそうという考えに至ったのは?

世の中には情報が乱立していて、神経質になりがち。それに少し違和感を感じていて、「もっと気楽に子育てできないかな?」と思っていました。完璧じゃなくてもいいから、お母さんたちに余裕を生み出すものが作りたかった。自分も含めて疲弊しているママたちに、「全部手作りするべき」という“べき論”から脱却してほしかった。料理がその1つ。すでにたくさん売ってあるけど、オプションの1つを作りたかった。そんな中、大分の豊後大野市で父が野菜を加工して卸す工場をしていて、野菜のピューレが作れる機械があるのは知っていた。自分が子どもを持って離乳食を作る大変さを感じ、「商品開発できるかも!」とピンときたんです。

——それでも、起業するって相当なチャレンジですよね?

正直、お父さんがやれているんだったら自分もやれるんじゃないか、って(笑)。父の工場が身近にあったし、自分の子どもの離乳食の時期とちょうど重なったのが大きかったです。それに、思えば家族みんな自営業なんですよね(笑)。祖母は印刷会社を立ち上げて、父も最初はその会社で代表をしていました。母方の祖母も介護ヘルパーの派遣事業をしていて。そういう環境で育ったので、影響は大きいかもしれないですね。

——すごい! 親族の多くが自営業なんですね! それは起業への大きな後押しになりましたね。

福岡市の特定創業支援制度が利用できたのも大きかったです。法人を立ち上げて、まずは福岡県の伴走支援プログラムの一環で新商品の開発、クラウドファンディングでの販売を行いました。離乳食だけではなくて、お母さん自身にも食べてもらえるように、スープやソースなどいろんなものに使える野菜のピューレを作りました。自分自身も必要だと感じていましたし。

 

手間を省き心に余裕を生み出す商品を

——クラウドファンディングサービス「Makuake」での販売は、383%を達成して大成功されたんですよね。野菜ピューレのこだわりはありますか?

塩や出汁などの調味料は使わず、野菜そのままの味にこだわりました。九州産の野菜でにんじん、さつまいも、ブロッコリー、ほうれん草の4種類を作って。野菜ピューレは素材を熱して殺菌して、急速冷凍しているので安全です。自炊ではないけど、レトルトでもない。レンジで温めるだけなので使い勝手がいいかな、と。パンケーキなどに入れて手軽に栄養が摂れるので、罪悪感も薄まるかも(笑)。最初はお母さんたち大人に十分に食べてもらえるよう大きな容量で作ったんですが、購入してくださった方から「小さなサイズもあるとうれしい」と要望をもらい、後から離乳食用に容量を少なめにしたものも作りました。このピューレが誰かの手間や、それにかかる時間を少しでも省いて、少しでも余力を生み出したいな、と思っています。

——「手抜き」ではなくて「手間抜き」と言い方が変わるだけで、すごく印象が違いますね。

私自身も離乳食作りには本当に苦労たんです。だから、しんどい時は便利な食品や宅配、お惣菜などに頼って、あえて頑張りすぎないことを心がけました。手間を省いた結果、精神的な余裕が生まれて、子どもとふれあう時間を有意義なものにできた気がして。でも、作ってみて感じたことなんですけど、ピューレは冷凍商品なので配送コストがそれなりにかかってくる。もっと使いやすさも考えて「常温の商品もいるな」と思い、今はフリーズドライの商品を試作しています。

——なんと! 新商品の開発に挑戦されているんですか?

そうなんです。フリーズドライは熱を加えない分、栄養を損なわないんです。ピューレ同様に味付けはしていません。素材100%の味だけど、フリーズドライにすると凝縮されて甘みが増して。常温の商品になるのでそのまま使えるし、受け取りも置き配ができるので、より使いやすいかと思います。

——新たな気づきを次の商品に生かされているんですね!

自分の中で「やってみないと分からない」というのは大事にしていて。最近小型の機械を買って、とうもろこしやさつまいも、いちごなどで試しているところです。ゆくゆくはスープなどもフリーズドライで販売できたらいいな、と考えています。

——すべてはお母さんとお子さんを笑顔にするため、という思いがあふれていますね。

育休で休んでいる間は、すごく孤独感を感じていたんです。仕事している時は社会とのつながりを感じていたけれど、産後はホルモンバランスも不安定だし、とてもきつかったんです。

——それ、分かります! 私も1年間育休で休んでいた時、会話をする相手が夫しかいなくて、社会からの疎外感を感じていました。

ですよね。だからこそ、手間を省いた分、公園に出かけたり、外の空気吸ったりしてほしい。それだけでも変わってくる。私自身も開発したピューレを使って、時間に余裕が生まれました。子どもと笑顔で向き合える時間がとても増えたと思います。

——子育てだけでなく、働き方にも変化はありましたか?

一言で言えば楽しいです。自分のペースで働けますし、やっぱり自分の商品なので思い入れもある。すべてが自分の責任でもあるし、自分で選択もできる。やりがいも大きいですし、自分に合っているな、と感じています。仕事が楽しいと、家に帰っても心に余裕が生まれていると思います。

何歳になってもチャレンジし続ける

——ちなみに社会人になる前、留学されていますよね? 何かきっかけはあったんですか?

海外の音楽が好きで、英語でコミュニケーションをとってみたいと思っていて、中学生の時にオーストラリアにホームステイをしました。その時に「世界って広いな!」と感じて、「いつか海外に絶対に行きたい」と。それで、短大卒業後に3年間、カリフォルニアの学校に通いました。

——留学の経験が今に生きていることってありますか?

周りのみんながとてもチャレンジングで。自分で自分のやりたいことを的確に見つけて、自分で切り開く人が多かった。その影響は受けているかもしれません。

——確かに、今の梶尾さんの生き方にも当てはまっていますね! 海外へは今もよく行かれるんですか?

友人や主人と、約12カ国に行きました。中でも、新婚旅行で行ったウクライナとポーランドは印象深かったです。ポーランドは音楽の都でもあるけれど、アウシュヴィッツ強制収容所なども見て、光と影を感じました。もう一度行ってみたいし、子どもたちと一緒に海外へも行ってみたいです。

——楽しみがいっぱいですね! 今、30代後半で、人生も半分といったところ。残り半分、どんな女性として過ごしていきたいですか?

何歳になっても新しいことに挑戦していきたい。お母さんたち子育て世代や、子どもたちのためになることを、今は食という形で携わっていますけど、別の形でも何かできないかと思っています。子どもたちが気負わず、将来に希望が持てる社会にするために、微力ながらやっていきたいです。

(2023年8月インタビュー)

 

【梶尾直子さん】

大分県豊後大野市出身、福岡市在住。2児の母として育児の大変さを痛感し、離乳食づくりの大変さから“手間抜き”をテーマに商品開発に取り組む。2021年に起業。現在はフリーズドライ製品を試作しており、販売に向けて準備中。離乳食アドバイザー、妊産婦食アドバイザー。趣味は海外旅行。息抜きは、子どもたちが寝静まった後の1人時間にNetflixを鑑賞すること。

HP:https://kosaji-inc.com/